合格のための勉強法①

洛北高校附属中・西京高校附属中

《2023(令和5)年5月15日更新》


■ 〈公立中高一貫校〉の今までとこれから

 1998年の学校教育法改正にともない、公立の中高一貫校が全国に続々と生まれました。
 高校受験のない6年間の一貫教育は、中学と高校で分断されていた教育をより効率的で独自性のあるものにすることを可能にします。
 京都では2004年に西京高校附属中学と洛北高校附属中学が、併設型中高一貫校としてスタートを切りました。

 2011年、東京の白鴎高校から中高一貫初の卒業生が出ます。そのなかには東大合格者が5名いました。このことは全国の教育界に大きなインパクトを与え、「白鴎ショック」などと呼ばれました。

 京都の洛北と西京も、このころから合格が顕著に難しくなっていきます。
 大学合格実績だけが学校の価値を決めるわけではありませんが、6年間通う中学・高校を選ぶときに「卒業後はどうなるのか」を重視するのは当然です。「白鴎ショック」が京都の成績上位層の受検熱を煽ったことは間違いないでしょう。

 適性検査の問題も、この前後に変化します。
 かつて国語では文章の要約をするだけの問題も出題されていました。今では読解問題と作文です。50分という時間にすべて終わらせるためには、一定のトレーニングが必要です。

 以前は特に準備もせずに受検してみたら合格したという人を見かけましたが、最近ではそんなミラクルを聞くことはまずありません。この傾向はこれからも続くでしょう。
 

■ 洛北・西京の基礎知識

歴史ある伝統校

 両校とも附属中学を設立し中高一貫教育を始めたのは2004(平成16)年。
 洛北は府立、西京は市立です。先生の異動も府立は府立間で(嵯峨野高校や鳥羽高校、山城高校など)、市立は市立どうしで(京都市立の各中学や堀川高校、紫野高校、日吉が丘高校など)行われるようです。

 洛北高校は日本で最初に作られた旧制中学、京都一中がそのルーツです。戦前には「ナンバースクール」と呼ばれた官立エリート校で、二人のノーベル賞受賞者(湯川秀樹、朝永振一郎)をはじめ、多くの科学者を輩出していることでも知られます。
 西京も明治期に創立された京都府商業学校を母体としています。こちらも京都に名だたる伝統校です。

学校の方針

 両校の教育目標や指導方針は、こうした歴史的経緯を背景としています。
 科学者を多く輩出してきた洛北は「SCIENCE(サイエンス=科学)」を教育の基本コンセプトとしています。2007年から文部科学省より「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の認定を受け、理系の学習に特化した独自カリキュラム「洛北サイエンス」を導入するなど、いわゆる理系進学の教育に力を入れています。卒業時にはちょっとした「卒業論文」も書くそうです。

 いっぽう商業高校を前身とする西京はコミュニケーション力の伸長に力点を置いています。朝の英語リスニング「イングリッシュシャワー」はその一例です。
 また生徒全員がノートパソコンを所持しており、すべての教室で無線LANのネット環境を利用できます。世界にはばたく「グローバルリーダー」の育成を掲げ、文部科学省から「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に認定されています。

卒業者の進路

 大学合格実績を見ていきましょう。
 ひとつの目安として東大・京大の現役合格者数(出典『サンデー毎日 2019年4月14日号』)にしぼって見てみます。洛北が9名、西京が22名。

 「白鴎ショック」が東大合格者5名だったことを思えば両校とも十分に素晴らしい実績です。ちなみに西京以外の公立高校で東大・京大2桁の現役合格者を出している学校は、堀川高校(34名)、嵯峨野高校(16名)だけです。
 私立は洛星(37名)と洛南(53名)がやはり目立っています。これらの学校は学年あたりの生徒数が多いため、合格率という視点から見ると、洛北と西京の実績は目を見張るものがあります。

基本データから見えてくること

募集人数

洛北約80名
西京約120名

受検倍率

2014201520162017201820192020202120222023
洛北5.65.34.54.63.73.63.22.93.33.0
西京6.75.44.64.64.54.74.13.73.43.8

 出願倍率は洛北・西京ともにここ数年で落ち着きました。ちなみに西京の創立年(2004年)の倍率はなんと11.46倍でした。
 2018年度に洛北高附中の倍率が低下しているのは、京都府南部の府立南陽高校の附属中学が設立し、募集を開始したためです。
 (洛北は府立のため京都府全域から受検できますが、西京は市立なので附属中学は京都市内からしか受検できません)
 大学入試制度改革の停滞と迷走により、先の見えない国公立大学受験よりも私立大学(またはその附属中高)への進学を志望する傾向が強まっていることも、2020年度受検倍率の低下の一助となっていると思われます。
 2021年度は新型コロナウィルスの影響もあり、柔軟な感染対策が可能でより将来を見通しやすい私立中に人気が集まりました。
 全国的に、公立中高一貫校の倍率は落ち着きを見せているようです。

 とはいえ、これらのことは必ずしも合格が「易しく」なったことを意味しません。以前は「なんとなく受けて、作文をがんばって書いたら合格した」というパターンがちょくちょくありました。また選抜のなかに「くじ引き(一定以上の点数をとった人の中から合格者をくじ引きで選抜する方式)」も存在したため、合否はかなりの程度「運任せ」の印象がありました。
 最近では適性検査問題が洗練され、量も増えて、くじ引きもなくなりました。「運」の入り込む余地がまったくないというわけではありませんが、私学の入学試験並みになったということはできるでしょう。

 このような背景から、「もしかしたら…」という軽い感覚で受検する層が減ったことが、倍率が低下したことの主要因と考えられます。それでも5倍弱という実質倍率は、私学と比べて高い水準です。
 洛北の受検者のなかには、受験日の違う難関私学(洛南や東大寺学園など)を併願受験する人が増えているようです。受検生の成績層は上昇していると見て間違いありません。

 適性検査のほかに小学校からの調査票、いわゆる「内申」も合否に影響します。
 京都の小学校は3段階評価ですが、合格のために必ずしも「オール3」でなければならないということはありません。いっぽう「オール2」で合格するのは現実的に厳しいようです。
 洛北は小学4年から、西京は5年からの通知表の点数が評価基準になると言われています。

■ 適性検査の出題傾向

 洛北も西京も「適性をみる検査Ⅰ」「適性をみる検査Ⅱ」「適性をみる検査Ⅲ」と「面接検査」の4科受検です。
 ただ、洛北は「Ⅰ」が国語、「Ⅱ」が理科・社会、「Ⅲ」が算数であるのに対し、西京は「Ⅰ」が国語、「Ⅱ」が算数、「Ⅲ」が理科・社会です。

 それぞれの検査時間は50分。

①国語

洛北

 論説文や随筆の読解問題(大問2題)と、原稿用紙1枚程度(361~450字)の作文問題があります。
 作文は2015年までは大問2の最後に出題されていましたが、2016年からは独立した大問になりました。

 国語であっても「科学」や「学習」にまつわるテーマを出題するのが洛北の特徴です。
 こちらも2016年以降、傾向に変化が見られます。ただ問題文のテーマは学習や能力、自然科学にまつわるものですので、これまでの傾向を踏襲しているといえます。
 漢字や言葉についての問題を必ず2題出すというのも、洛北の国語の特徴です。

 国語にかぎらず、洛北は2015年から京都府立のほかの中高一貫校(園部・福知山)と一部共通の問題を使うようになっています。そのためか、ここ2年は学校独自の特徴がやや薄れている印象があります。

西京

 長い文章(6000字程度)と詩や短い文章を読み比べる問題が、西京の出題スタイルとして定着してきました。
 作文は洛北ほど長くはありません(150~200字)が、ここ数年は毎年出ています。配点は洛北ほどには高くないと思われます。
 作文では、2つの文章に共通するメッセージを見つけてまとめ、それについての自分の考えを述べることが求められます。高度なコミュニケーション能力が問われています。
 2017年度の問題には作文の「条件」のなかに「2段落目には、あなたがどのような中学生でありたいかと具体的に書く」という事項が追加されました。単なる意見ではなく正統派の「作文」スタイルの文章が求められています。
 問題文の長文化(6000字以上)が進行していましたが、2018年度はやや短くなりました。
 2019年度は現京都大学学長で霊長類学者の山極寿一氏、2020年度は脳科学者、茂木健一郎氏と、比較的メジャーでテレビでもよく見かける知識人の文章が問題文に採用されています。

 また2016年の洛北・西京の国語は、どちらも『何のために「学ぶ」のか:〈中学生からの大学講義〉1』 (外山滋比古ほか/著 ちくまプリマー新書、2015)を出典としています。事前に両校の問題作成担当の先生のあいだで打ち合わせがあったのか、それともただの偶然なのかは分かりません。
 そのまえの2015年は、洛北と滋賀県立中高一貫校が、同じ『植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ』(田中修/著 幻冬舎新書、2013)から出題しました。近畿の中高一貫校はネタかぶりが多いようです。

②算数

洛北

 速さ、割合、規則性、平面図形、立体図形などが出題されます。単純な計算は出ません。
 算数の問題であるにもかかわらず、問題の文章がとても長いのが特徴です。
 問題で示された条件を文章で読み、解法を考え、図式化・数式化して答えを出すまでのプロセスを自分ひとりで追えるかどうかが問われています。

 ルービックキューブのような立体図形をいろいろな角度から見て(頭の中で考えて)正解を出す問題は洛北のみならず全国の公立中高一貫校の頻出パターンです。
 また最近は碁盤の目や図形上を一定の法則や規則に基づいて移動するコマの動きを予想・計測する問題(プログラミング)もトレンドです。
 ICT教育の流行を背景に「規則性(数列)」と「場合の数(確率)」の単元を織り交ぜた新傾向の問題といえるでしょう。2020年度西京に出題されました。こちらも対策が必要です。

西京

 表やグラフなどの資料を読み取って計算する問題、規則性や割合に関する問題がほぼ毎年出ています。
 資料の読み取り問題は「算数・数学」というより「算数・数学的な思考を生活や研究のなかでいかに利用できるか」というポイントをついた、西京らしい面白い出題と言えます。

 立方体の問題は西京でも出ます。洛北が立方体を3×3×3に重ねた「ルービックキューブ」の問題をよく出すのに対して、西京はサイコロを転がす問題をよく出題します。
 どちらも立体図形に対する感覚(頭のなかで図形を動かすことができるかどうか)を試す問題で、日ごろから空間イメージの訓練ができているかどうかが問われます。
 洛北・西京ともに、単純な計算力や「つるかめ算」などの受験算数知識ではなく、数学的な論理展開力や数字・図形に対する感性を問う問題に重点を置いています。

③理科・社会

 両校とも私学受験塾で習うような広い知識を問う問題は出ません。
 理科や社会に対してどれだけ興味関心があるのかという「深い」知識や感覚が試される出題が目立ちます。

 社会は歴史的な人物の肖像画や美術品など、教科書の図版に見えるものが出題されます。また難しいことを聞かれているように見えても、年表や資料をよく読めば、小学生レベルの知識でも答えに至ることができる問題が大半です。
 記述問題のなかには難問も多く、単なる知識ではなく普段から歴史や地理についてどれだけ関心を持って生活しているかが問われます。
 2020年の西京では「江戸に幕府を開くことができたのは、この時代の少し前から日本の人々が〇〇することができるようになったから」の〇〇を聞く問題が出ています。歴史読本や教養クイズ番組などの背景知識がモノをいいそうな問題です。
 
 公民分野(政治・経済)からの出題もわずかですがあります。教科書の後半部分に載ってはいるのですが、多くの小学校で卒業までに終わらない範囲なので、ここは何らかの対策が必要な分野です。

 理科は教科書の発展的内容(「学んだことを生かそう」のページなど)から出題されることがあります。教科書をすみずみまでじっくり勉強することが大切です。
 また、キャベツ畑にモンシロチョウのタマゴがいくつあるかを調べるときの計算法やコーラなど炭酸水に入れる気体はどうして普通の空気ではいけないかを記述する問題(2020年西京)など、理科というよりは「理科的な考え方」ができるかどうかを試す問題も出題されています。
 洛北は記号問題主体ですが問題文や選択肢の文章が長く、大問のテーマ(2020年はオリンピック)に沿いながら様々な単元からの出題があります。検査本番で楽しみながら思考する余裕を持ちたいところです。

どれだけ取れれば合格できるのか

 過去問を初めて見る小学生や保護者のみなさんは、「こんなの難しくてとうてい点がとれない……」と、心が折れそうになります。しかし私学と同様、適性検査も合格のために満点を取る必要はありません。
 では実際に何点とれば洛北・西京で合格することができるのでしょうか。
 通知表の結果も反映しますのではっきりとしたことは言えませんが、洛北はおおむね7割前後、西京は5割前後が、合否を分けるラインになっているようです。
 両校とも、2010年代の前半が問題の「難しさ」のピークだったように思います。最近は比較的素直な出題が目立ち、特に西京の2019年度は平均点がかなり上昇したようです。
 ただこれによって合格が易しくなったと考えるのは早計と言えます。受検者の平均点が上がれば、合格基準点も当然ながら上昇するからです。

 問題そのものは西京のほうが難しいのですが、合格ラインは洛北のほうが高いのです。
 また、洛北はどれかの教科で極端に悪い点をとるとそれだけで不合格になります。3教科のすべてでそこそこ以上の点をとらなければなりません。
 単純に「合格しやすさ」という観点で洛北・西京の受検を考えるのであれば、どの教科も平均して力があり、基本的な問題ならしっかり解きこなせる力を持っている人は洛北を、得意・不得意の教科がはっきりしているが、得意教科なら誰よりも高得点が取れる力を持っている人は西京を受けるのが、賢明な判断であるということができます。もちろん「受かりやすさ」のみを追求して受検校を決めてはいけませんが。

■ 合格のための勉強法

 私立中学の受験勉強は、早い子で4年生、遅くても5年生から始めるのが標準です。
 洛北・西京もできれば5年生のうちに対策をはじめたほうが良いでしょう。
 大手の集合塾だと、とりあえずは私学受験と同じクラスで勉強を始めてもらうところが増えているようです。

 自学自習で対策をする場合、市販の対策問題集を使うことになります。まだ多くはありませんが、毎年数点は出ているようです。
 算数・国語については、そうした問題集を解きながら、出題形式にじっくり慣れていくことが大切です。
 単なる「漢字の練習」や「計算ドリル」は、基礎力をつけることはできますが合格点をとるための得点力にはならないので注意してください。

 理科・社会は、難関私立のための高度な知識は必要ありません。
 学校の進度よりも早めに基本的な知識をおさえておくのがいいでしょう。
 こちらも、市販されている基本的な問題集で十分な対策をすることができます。

 過去問には6年生の夏前後から取り組みはじめるのがいいと思います。
 はじめはチンプンカンプンかもしれませんが、じっくり取り組めば考え方が分かってきます。
 洛北・西京ともに、出題傾向が近年かなりはっきりしてきたので、予想はつきやすくなってきました。
みくに出版が毎年刊行している『公立中高一貫校適性検査問題集 全国版』は、西京・洛北をふくめた全国の公立中高一貫校の前年度の問題を集めた過去問題集です。洛北の問題は東京都立の共通問題と比較的似ています。
洛北・西京の問題は全国でもかなり難しいほうの部類に入ります。取り組みやすい他県の過去問題でトレーニングを積むのは効果的な勉強法です。

 洛北・西京ともに、それぞれの教科で問いたいのは「知識」ではありません。
 基礎的な知識や各教科の「考え方」を、しっかりと運用できるかどうかを問う出題が目立ちます。
 受検対策で身に着けなければならない力は、以下の3つです。

1.想像力

 イマジネーション。といっても、見知らぬ世界をぼんやり夢見る力、ということではありません。
 あるものを、実際には見えていない方向から見ればどのように見えるのか。
 算数なら、図形を頭の中で回転させたり、人物をある地点から別の地点に動かしたりする。
 国語なら、自分の考えを言葉に変える。
 頭の中で、形のないものを形にしたり、紙にかかれたものを頭の中で動かす力を高めることを意識してください。

 小さなころからパズルや積み木、折り紙やブロックのようなおもちゃでよく遊ぶことで、こうした力は自然に身につきます。

2.論理力

 資料を読み取る問題や、算数の文章題、国語の読解問題の多くは、この「論理力」を問う問題です。

 ある事実から考えられる結論を、冷静な頭で客観的に導き出すこと。
 「お母さんが言ったから」といった底の浅い知識や、「気持ち悪いから」といった感情論ではなく、与えられた情報から正しい事実を見つけ、目的に向かって考えを組み立てていく力が論理力です。
 「しかし」や「したがって」など、接続詞の使い方から文脈を読むことも、この論理力に含まれます。

 論理力を鍛えるためには、何よりも普段から本をたくさん読むこと。
 好きなもの、嫌いなものと出合ったときに、「なぜそう思うのか、感じるのか」を、自分の言葉で説明することも大切です。

3.表現力

 思ったことを相手に伝える。これが表現力です。
 表現することは、先の「想像力」と「論理力」の集大成としてあります。

 相手の立場や理解力を想像し、自分の考えを誰にでも分かる形にして、伝わるように話す。
 適性検査の作文や面接はこの力を試すものです。
 特にコミュニケーションに関する教育に力を入れる西京は、この表現力を直接問う問題が目立ちます。

 表現力は学校生活や家庭での会話、あるいは読書のなかで育まれますが、適性検査の作文課題を多くこなすことでもかなりの程度向上します。

■ おわりに

 洛北・西京の適性検査問題は、洛北が「論理力」、西京が「表現力」に力点を置いているという違いはありますが、どちらも与えられた情報から自分の力でものを考え、結論を導く力を見るという点では一致しています。
 合格のための対策学習を続ける中で、生きるために必要なそうした力を養うことができれば、合格・不合格に関わらず、これからの人生の大きな糧となることは間違いありません。

 狭き門ですが、チャレンジする価値のある学校です。合格を目指して前向きな努力を続けましょう。


 
©Mokuyosha All Right Reserved, 2016